ポルチーニ茸とは・・・学術的分類について

Agaricalesハラタケ目- Boletaceaeイグチ科- Boletusヤマドリタケ属のキノコで、日本ではヤマドリタケと呼ばれています。

イタリア語では「フンギ・ポルチーニ(ポルチーニ茸)」と呼ばれていますが、フランスでの名称は「cèpe(セップ)」、ドイツ語での名称は「Steinpilz(シュタインピルツ)」と呼ばれています。

実は、一般的に「ポルチーニ茸」という名称は、いくつかの類似したキノコをまとめて呼んでいる名称です。イタリアでは、次のヤマドリタケ属の4種類のキノコを「ポルチーニ茸」として取り扱っています。

(Boletusとは、ヤマドリタケ属という意味です)

参考:ポルチーニ茸の名産地であるイタリアのエミリア・ロマーニャ州のボルゴターロ(Borgotaro)。この土地のポルチーニ茸はヨーロッパで唯一IGP(地理的保護商品)として指定されています。この指定対象の品種は上記4種が、その対象となっています。

ポルチーニ茸の産地: ポルチーニ茸は人工栽培に成功していない=100%が天然からの採取

ポルチーニ茸は、マツタケやトリュフ同様に、特定の樹木の根の周囲に菌根(菌類が、樹木の根に侵入して共生をする形態)を作って樹木との共生関係を構築して繁殖します。天然の環境下で繁殖するために、人工栽培の手法は確立されていません。そのために、全てのポルチーニ茸は天然採取品となります。どのような環境で採取されるかについては後述します。

イタリア料理で有名なためにイタリアが産地として有名です。実際のところ、ヨーロッパではポーランドが産地としては有名です。

また、中国産のポルチーニ茸も存在します。中国 雲南省、チベット(ヒマラヤ山脈)地方で採取されています。近年ではイタリアでも、安価なポルチーニ茸は中国産のものが流通しています。

ポルチーニ茸のランキング

ポルチーニ茸には4種類の近隣種が含まれるということはご説明しました。さて、ではそれぞれの味の評価はどのようになっているかを見てみましょう。
イタリアのポルチーニ茸採集家へのアンケートで、美味しさの評価では次のような結果が出ています。

1位:Boletus aereus(ボレタス・アエレウス)
2位:Boletus aestivalis(ボレタス・エスティヴァリス)
3位:Boletus edulis(ボレタス・エドゥリス)
4位:Boletus pinophilus(ボレタス・ピノフィルス)

さらに、「新鮮なBoletus aereus(ボレタス・アエレウス)が最高」という意見や、「栗の木に生えるBoletus aestivalis(ボレタス・エスティヴァリス)が最高。最も香り高い絶対王」との意見もあります。つまりBoletus aereus(ボレタス・アエレウス)とBoletus aestivalis(ボレタス・エスティヴァリス)の2種は特に高評価のようです。
見かけの美しさランキングには議論の余地無く、次のようなランキングとなっています。

1位:Boletus pinophilus(ボレタス・ピノフィルス)
2位:Boletus edulis(ボレタス・エドゥリス)
3位:Boletus aereus(ボレタス・アエレウス)
4位:Boletus aestivalis(ボレタス・エスティヴァリス)

ポルチーニ茸の異物について

ポルチーニ茸は非常に人気の高い食材ですが、天然茸のため砂や葉、虫などの異物が混入している可能性があります。

キノコバエ:ポルチーニ茸には、キノコバエという昆虫の幼虫が生息しています。実際にフレッシュポルチーニ茸に生息するワーム状の幼虫を目の当たりにすると、不快感が生じてしまいます。しかしながら、これは避けることができない自然の現象であり現実です。ポルチーニの内部には居るものですから、理解し、納得する以外にありません。とはいえ、日本国内でフレッシュポルチーニ茸を販売する際には、軸を割いて内部を確認して販売されている様子です。このように内部を確認する以外には避けることはできません。

土砂:ポルチーニ茸は前述したように、天然採取のキノコです。そして、キノコは地中から生長するために、地表の土砂を巻き込んだ状態で採取されます。そのために、採取されたポルチーニ茸には必ず砂などの異物が混入しています。

フレッシュポルチーニ茸や冷凍ポルチーニ茸の場合は、表面をナイフで削り落としたり、傘の裏に隠れた砂を入念に除去することでかなりの土砂を除去することができます。

乾燥ポルチーニ茸については、スライスされた状態となるために、土砂がまんべんなく付着しており完全除去はさらに困難となります。乾燥ポルチーニ茸はいったん水で戻してから調理をするのがセオリーとなっていますが、水で戻した際によく戻し汁の中でポルチーニ茸を揉んで、砂をなるべくふるい落とすしかありません。

ポルチーニ茸のパウダーについては、ポルチーニ茸の形状的な美観を問われることがないために、原料となる部位が低質な部位である可能性が高く、土砂混入量の程度がさらに高くなります。

一般生菌および大腸菌群:ポルチーニ茸は山野の自然環境中で生育します。そのために採取したポルチーニ茸には一般生菌、および大腸菌群が存在します。レストランでの調理などで消費される範囲では人への危害は起こらず、特に気にすることはありません。しかしながら、保存食品や加工食品にポルチーニ原料を使う場合には、付着している菌についての配慮をする必要があります。

※ポルチーニパウダーの一般生菌・大腸菌群による品質問題を解決するためには、いくつかの手法があります。食品工業業界におかれまして、高度でシビアな品質管理を必要とされる方は、弊社にお問い合わせください。

アレルギー

ポルチーニ茸のアレルギーを持つ人がいます。他の食物アレルギー同様に重篤な反応を起こす人が居ます。

ポルチーニ茸の発生条件について

森林内の地表温度(土壌の温度です)と雨量(気象観測所の雨量データを利用します)の関係を示します。

ポルチーニ茸の種類によって、若干パラメータが異なります。

例えば、降雨量が70mmの場合はedulisを探す場合には10度程度の比較的温度の低い場所を探さなければなりませんが、降雨量が100mmの場合には12度程度と、少し温度の高い場所を探さなければならないということです。

このパラメータを使ってポルチーニが発生していそうな標高の場所を探します。

ポルチーニ茸の季節(イタリアでの例)

一般的には、ポルチーニ茸が出回るのは、サマーポルチーニ(aestivalis)が5~6月に始まり、最盛期である8月~10月が旬となるとされています。

詳細にポルチーニ茸の発生の季節を追いかけると、イタリア国内でポルチーニ茸が発生するのは1年のうち9ヶ月に及びます。

ポルチーニ茸は、雨と気温の微妙なバランスが最適となったタイミングで発生します。地域ごとの気候によって、次々と発生します。そのタイミングは地域によって異なります。

ポルチーニ茸の収穫のためには、適切な地表温度を知り、適切な降雨量を確認した後にターゲットの森林に行くことが必要です。最適条件が整った環境では、プロのポルチーニハンターは1日に40キロ~100キロものポルチーニ茸を収穫することがあります。プロのポルチーニハンターは①正しい樹種の森、②正しい森の標高、②必要な降雨量の雨が降った後のタイミングを見定めます。

まず、イタリアの気候帯を次の6つに分類して解説をスタートします。

アルプス地方 冬は寒く、夏は涼しい、大雨や雪が降る気候
ポー川流域平原 長い冬。夏は暑くて湿気が多いのが特徴。
ティレニア海沿岸冬は穏やか、夏は暑い。特にリグーリアでは雨が多い。
アドリア海沿岸夏は暑いが蒸し暑くはない。冬は寒い。冬と春に降雨量が多い。
アペニン山脈冷涼な冬と涼しい夏。高い山では雪が降る。
南部と島暑い夏が長く、冬は雨が少なく穏やか。

1月・2月・3月

気温が低いためにどの気候帯でも発生の可能性はありません。

4月

北部とアペニン山脈では降雨量は十分ですが、気温はまだ低いです。

まだポルチーニ茸の季節とはいえませんが、多少の発生の兆候がみられます。ティレニア海沿岸では、雨と気温が発生範囲に近づいているため、暖かい日が続くと山の低い部分にBoletus pinicula(これもポルチーニ茸の一種)が発生したり、丘にBoletus aestivalisが発生します。

5月

ポルチーニシーズンの再開です。気温と降雨量ともに、ティレニア海沿岸の丘陵、ポー川流域平原、アペニン山脈の丘陵では発生のタイミングとなっています。

6月

山岳地帯ではまだ温度が低すぎます。ポー川流域では、丘陵地帯で雨量が適度となり気温も発生範囲になってきます。

7月・8月

本格的なポルチーニシーズンとなります。

アルプス地方では雨量と気温が最適範囲となり、十分な発生が見られるようになります。7月は低地の丘では温度が高すぎるために、山の多少標高が高く涼しい場所に生えます。8月は、標高2,000メートルのモミの林でも発生します。

アペニン山脈では、気温、降水量ともに適度となっています。雷雨が降る場合があり、そのような気象状態の後にはポルチーニ茸が爆発的に発生する可能性があります。

南部と島地域では、降雨量が少なすぎ、また温度が高すぎるためにポルチーニ茸は発生しません。

9月

いよいよメインの月です。雨量と気温は発生に適したレンジに入りますが、地域によって大きく異なります。アルプス地域では高い山では気温が低すぎます。南部と島地域では気温がレンジ内に入りますが、雨量が少ない地区があるために一様に発生するわけではありません。

10月

アルプスの標高の高い地区は気温が低すぎます。イタリア中部では気温は良好で、雨量次第でポルチーニが発生します。

南部と島地域では、大部分の地域で発生がみられるようになります。

11月

ポルチーニ茸の発生状況は南北で逆の状況になります。つまり、北部では気温が低すぎて、発生がみられなくなります。イタリア中部の比較的低標高の場所に限られてきます。また、南部および島地域は、良好な発生が見られる唯一の地域となります。

12月

全国的に気温が低いために発生が見られなくなります。サルデーニャ島とシチリア島では、依然として発生が見られる場所があります。

ポルチーニ茸発生の前触れとして発生するキノコについて

ポルチーニ茸発生の数日前に、先に発生するキノコがあります。

lactarius vellereus と piperatus、またpholiota aegeritaなどです。これらのキノコの菌糸体はポルチーニ茸と近い温度帯で活性化されます。

clitopilus prunulus、amanite muscaria(ベニテングタケ)、Amanita rubescens(ガンタケ)、Amanita pantherina(テングタケ)も同様にポルチーニ茸の発生のサインです。

ポルチーニ茸がそこには発生しないことを示すキノコについて

ポルチーニ茸の好む土壌組成とは異なる条件で発生するキノコがあります。boletus satanas(ウラベニイグチ)、boletus regius(アケボノヤマドリタケ)、boletus luridusです。これらの近辺にはほとんどポルチーニ茸は見つかりません。

ポルチーニ茸のシーズンが終わったことを示すキノコ

clitocybe nebularis(ハイイロシメジ)、cratarellus cornucopioides(クロラッパタケ)、cibarius(アンズタケ)などの、低温を好む菌類が森に見られる場合には、その場所はすでにポルチーニ茸の季節が過ぎていることを示します。

ポルチーニ茸発生の期間

ポルチーニ茸が発生する場所において、平均発生期間は2週間未満です。1年で最大2~3回発生することがあることを考えると、最大で20~30日間、同一場所でのポルチーニ茸発生が期待できると言えます。

ポルチーニ茸のサイズについて

出始めのポルチーニ茸は、小さいものが数多く発生する傾向があります。同一場所での2回目の発生以降は逆にサイズは大きく数は少ない傾向にあります。

ポルチーニ茸の成長スピード

ポルチーニ茸は発生から3~8日で劣化し始めます。涼しい森の中では発生が開始してから劣化がスタートするまで6~8日かかります。

夏のオーク林では4日後に溶けてしまったりしますが、涼しい秋のブナ林では7日後でもまだ大丈夫だったりします。

乾燥と霧について

適切な温度の条件下で雨が降り、大気中の湿度が蒸気で飽和しているときは菌糸体が活性化されます。 高温で乾燥状態の条件は、直感とは合致しませんがポルチーニ茸発生のチャンスになります。長期間の旱魃でもポルチーニ茸の菌糸体は損傷しません。旱魃後に新しく雨が降ると、地表から30~40センチの土壌は水分で飽和し、菌糸体は適切な条件が整い次第に繁殖を再開します。乾燥した夏の後に適切な降雨があると、良い発生が見られる場合があります。

月の満ち欠けとの関係について

ポルチーニ茸採集家の半数は月齢の状況とポルチーニ茸発生の関係性を確信しています。満月の前後が良好な収穫があると考えています。ただし、この件については直接的な研究結果は見つけられません。

ポルチーニ祭りについて:ボルゴターロのポルチーニ祭り

イタリアのエミリア・ロマーニャ州の町“ボルゴターロ(Borgotaro)”は古くからポルチーニ茸の名産地として知られています。

https://www.fungodiborgotaro.com/
https://bacchetteepomodoro.com/ja/sagra-di-borgo-taro/