イタリアでのトリュフムーブメントの流れ

トリュフを産出するアルバ近郊ランゲの丘
トリュフを産出するアルバ近郊ランゲの丘

ピエモンテ(Piedmont)では白トリュフは、サボイ王朝と他の貴族の食卓で何世紀にもわたり供されてきました。市井の村人たちも犬と一緒に探しだし、食してきました。

20世紀には、アルバの料理店主 ジャコモ・モッラ(1889-1963)が、まずトリュフのフェアを企画し、これを国内、海外レベルのトリュフプロモーションまで広げ、トリュフのステータスを押し上げました。彼の活動は、ランゲ、ロエロ、モンフェッラートの地域だけでなく、他のトリュフの産地も盛り上げるという効果をもたらしました。

ランゲの丘の起伏に富んだ地形
ランゲの丘の起伏に富んだ地形

それ以来、アルバ近郊の地域は、本物の白トリュフゾーンとして、この貴重なトリュフが育つ地であり、ワインと美食の地として国際的に名声が広まりました。

世界各地から、南ピエモンテの、ヘーゼルナッツ畑やブドウ畑に覆われた小さな村や城を旅行する観光客は増加しています。これらの丘はワイン畑の景観の地として、近年、ユネスコの世界遺産リストに加わりました。

現在イタリアではアルバとアクアラーニャの地域が白トリュフの採集地として有名です。
何十ものトリュフ協会が作られていて、栽培することの出来ない白トリュフ(学名:Tuber Magnatum Pico)の評価を上げることに携わっています。

アルバの白トリュフの名声を伝えようとしている人々は、この白トリュフを世界に輸出しようというのではなくて、フレッシュな白トリュフを食べるためにその土地に旅行してもらおうとしています。ですから、輸出するためのシステム作りなどには反対で、また化学合成によるトリュフフレーバーには興味を持たず、あくまでもフレッシュな白トリュフを中核とした地域おこしを目指しています。

トリュフの品種と特徴

森からの贈り物(©イナウディ社)
森からの贈り物(©イナウディ社)

トリュフは、植物学的に分類するとTuber(子嚢菌類セイヨウショウロ属)に属するキノコです。
トリュフは、単なるキノコの一種というより、特別に希少な食品といえます。

トリュフを含む地下生菌たちは、他の植物と共生をする共生菌類です。他の植物の根の周囲などに生息し、そのお礼に有用な物質を提供して生きています。植物の根と、そこに生息している菌類間の共生は、”菌根(きんこん)”として知られています。菌根とは、植物の根の先端延長上に菌糸を伸ばして、まるで植物の根の一部のようになった構造物です。例えば、土壌中の窒素やリンなどの無機養分を植物の根に供給して、同時に植物が生産した炭水化物を取り込んでエネルギー源としています。

Tuber属は、その一生を地中で樹木とともに共生してすごす菌類です。

「トリュフ」という言葉は、実はさまざまな菌類の子実体に使われる一般的な名称です。もともとは菌糸体でできています。菌糸というのは茸の成長する部分で、繊維状の細胞からできています。トリュフは一般的には球状菌糸と呼ばれる細胞の塊で、外表皮(はがれていたり、殻になったりしています)があります。外表皮は滑らかであったり、シワがあることのほうが多いです。そして、内側の塊(果肉あるいは基本体(グレバ)と 呼ばれる)には、胞子を入れた子嚢を囲むように縦横する脈状の筋が通っています。
(注:このような生物学的な生態については、参考文献「地下生菌 識別図鑑」に分かりやすい写真や図で解説されています。)

主な種類

世界の約60種の茸がTuber属(いわゆるトリュフ)として分類されています。そのうち25種がイタリアで見つかっています。9種が食用トリュフで、そのうち6種が市場でよく見るトリュフです。

tuber magnatum 学名:TUBER MAGNATUM PICO
いわゆる”白トリュフ”。ピエモンテの白トリュフ、アルバの白
トリュフ、アクアラーニャの白トリュフと呼ばれるものです
tartufo melanosporum copia 学名:TUBER MELANOSPORUM VITT[ADINI]OR
T. NIGRUM BULL.
Black Truffle/ Norcia or Spoleto Black Truffle
黒トリュフ、ノルチャの黒トリュフ、スポレートの黒トリュフ
学名:TUBER AESTIVUM VITT.
Summer Truffle/ Scorzone Truffle
夏トリュフ
tartufo bianchetto 学名:TUBER ALBIDUM PICO OR TUBER BORCHII VITT.
Bianchetto Truffle/ Marzuolo Truffle
ビアンケット
学名:TUBER BRUMALE VITT.
Black Winter Truffle
黒い冬トリュフ
学名:TUBER MACROSPORUM VITT.
Smooth Black Truffle
滑らかな黒トリュフ
学名:Tuber Brumare var. Moschatum de Ferry
Moscato Truffle
麝香(じゃこう)トリュフ
学名:Tuber Unicinatum Chatin
Uricinato Truffle、Hooked True
鉤状トリュフ
学名:Tuber Mesentericum Vitt.
Bagnoli Black Truffle
バニョーリの黒トリュフ

 

白トリュフ(Tuber magnatum Pico)の特徴

アルバやアクアラーニャの白トリュフは基本的に球形ですが時に平べったかったり、こぶや空洞、突起がある不規則な形状であったりします。
外殻は滑らかでわずかに乳頭状。白っぽい黄色。ときに、赤茶の斑点があります。
基本体は、たくさんの細いしなやかな枝状の白い脈が縦横しています。色は乳白色からピンク、ヘーゼルナッツ色から茶色まで様々です。
大きなものはりんごサイズぐらいに成長します。まれに1キロ以上のものも見つかります。

白トリュフが最も熟すのは10月の半ばです。
白トリュフは野生でのみ育ち、これまでのところ栽培技術は存在しません。イタリアのいくつかの地域と同じようにクロアチア(1930年代以降イストリアでよく見つかっています)やルーマニア、ブルガリアでも見つけることが出来ます。

Tuber magnatum Picoはイタリアでは主に3つの地域で見つかっています。ピエモンテの丘、ポー谷、中央と南アペンニーニの地域です。
ピエモンテのトリュフ・・・特にランゲ、ロエロ、モンフェッラート地方、またトリノの東の丘で見つかるものは、誰もがすばらしいと認めるトリュフです。ここはイタリアで最も広いトリュフ産出の地域で、たくさんの白トリュフが見つかります。
Tuber magnatum Picoはロンバルディア、エミリアロマーニャ、トスカーナ、ウンブリアやマルケ、ラツィオ、アブルッツォ、モリーゼ、バジリカータでも見つかります。

黒トリュフの特徴

ノルチャやスポレートの黒トリュフは丸く、ときに突起があり、イボイボ状の茶色がかった黒色の子殻があります。
基本体は黒檀色や、紫がかった茶色で、細く、淡い白っぽい枝状の脈が縦横しています。
大きく育ち、大きなりんごより大きくなることもあります。

このトリュフは11月半ばから3月半ばまで、特に1月、2月によく見つかります。黒トリュフはイタリアや、他のヨーロッパ諸国、ポルトガルからブルガリア、なんと言ってもフランス(かの名高きペリゴールの黒トリュフ)やスペインでよく知られています。このトリュフは19世紀以降、まずフランスで、続いて他のヨーロッパ諸国で栽培され、すばらしい成果を残しています。

イタリアでは、中央アペンニーニ、特にウンブリアとマルケで最も多くみつかります。しかしTuber melanosporumは、ピエモンテやリグリア、ロンバルディアやラツィオ、アブルッツォ、カンパーニャでも見つかります。

その他種類トリュフの特徴

■スコルツォーネ(Tuber aestivum)は、はっきりとしたイボイボ子殻を持ち、ざらざらとした触感で、色は黒から茶色。そして、基本体はぼんやりとした黄色からヘーゼルナッツ色、無数の白っぽい脈が走りマーブル状になっています。
他のトリュフに比べ、気候や土壌条件に左右されず、ヨーロッパを越え北アフリカやトルコまで様々な地域の広葉樹に共生し育ちます。5月から晩夏にかけて熟します。

■ビアンケットやマルツオーロ(Tuber borchii or T. albidum)は球状で、欠けや空洞がなく、直径5センチを超えるものはまれなトリュフです。
薄く滑らかで艶のない子殻をもち、色はくすんだ白、薄い茶黄色、もしくは赤茶色。紫もしくは赤みのある茶色の基本体で、白っぽい、または赤味がかった白色の脈が走っています。

広葉樹に共生し、時に針葉樹にも共生します。土壌はゆるく砂質を好みますが、石灰質や粘土質でも育ちます。様々な土壌や気候条件に適応する能力があるので、いたるところで共生し、ヨーロッパ各地で見つかります。イタリアでは、2月から3月にかけて採集されます。

■冬トリュフ。その名前からもわかるように、冬トリュフは寒い時期に熟します。球形で、わずかにイボイボで黒か青味がかった黒色の子殻を持っています。基本体は茶色がかった灰色かくすんだ灰色で、白色の脈が走っています。土壌深くを好み、粘土質や淀んだ水、針葉樹林のような高いPhにも耐性があります。

■滑らかな黒トリュフ(Tuber macrosporum)は、9月から12月にかけて採集されます。
しばしば、同じ場所から1~6センチぐらいのものがいくつか見つかります。
球形で、赤茶色や黒っぽい子殻を持ち、数多くの平らな多角形のイボがぎっしり並んでいるため、滑らかな表面に見えます。基本体は、はじめは白茶で、だんだん色あせた茶色になります。白い脈がたくさん走っており、空気に触れると薄い茶色になります。白トリュフと生息地が似ていますが、より水不足に耐性があります。

■麝香トリュフ(Tuber brumale var. Moschatum Ferry)は冬トリュフのひとつで、同じ共生植物と分布領域をもちます。大きさは小~中サイズで不規則な形をしています。子殻は暗色、時に赤っぽく、触れるとすぐ取れてしまう小さなイボがあります。灰色もしくは茶色の基本体は、太く白い脈が走っています。2月から3月にかけて熟します。

■鉤状トリュフ(Tuber unicinatum)は、フランスでブルゴーニュトリュフもしくはシャンパーニュトリュフとして知られ、秋に採集されます。スコルツォーネと同じ種に属し、顕微鏡で見ることが出来る、胞子上にあるフックによって見分けられます。

■Tuber mesentericumは、一般的な黒トリュフであるmelanosporumに似た形状ですが、通常少々小さめでときに腎臓のような形をしています。黒か茶色の子殻は平らなイボ状です。基本体はぼんやりした黄色から青灰色などで、迷路のような薄い色の脈が走っています。
9月から冬のはじめごろに熟成し、春まで育つものもあります。

白トリュフを育てる樹木と環境

■白トリュフ(Tuber Magnatum Pico)が生育するには、天気や土壌の特別な環境が必要です。土壌は、泥炭、粘土質、泥砂質が理想的で、新第三紀の土壌に分類されるような地層、たとえば、ランギアン、サーラバリアン、トートニアン、アキタニアン時代の層などが最適です。
海抜は700メートル以下で、滑らかな斜面であって、通気のよい、かといって良すぎることはなく、乾期でも土壌の表面は湿っていて、石灰岩が豊富にあり、リンや窒素が少なく、カリウムが多い土壌。そして、酸度は中性か少しアルカリ。春や夏の雨は不可欠で、水路の近くがよいですが、淀んだ水ではいけません。

白トリュフにとって好ましいのは、次の共生植物があることです。
・ヨーロッパオーク(English Oak)
・トルコオーク(Turkey Oak)
・冬ナラ(Sessile Oak)
・ダウニーオーク(Downy Oak)
・西洋ポプラ(Black Poplar)
・シルバーポプラ(Silver Poplar)
・カロリナポプラ(Carolina Poplar)
・アスペン(Aspen)
・ネコヤナギ(Goat Willow)
・西洋シロヤナギ(White Willow)
・菩提樹( Linden)
・ホップホーンビーム(Hop Hornbeam)
・ヘーゼル(Hazel)

■ノルチャの黒トリュフ(Tuber Melanosporum)が生育する環境は、白亜質の石の多いぎゅっと詰まった底土で、カルシウムや炭化物が豊富、リンと窒素が低い土壌を好みます。
地層学的に言うと、中生代の砕かれた岩でできた土壌です。このトリュフは温かい土壌が必要なので、陽の光が直接あたり、木々が地表の30%を超えて覆っていてはいけません。

ノルチャの黒トリュフにとって好ましいのは、次の共生植物があることです。
・ダウニーオーク(Downy Oak)
・ホルムオーク(Holm Oak)
・トルコオーク(Turkey Oak)
・菩提樹( Linden)
・ヘーゼル(Hazel)
・ホップホーンビーム(Hop Hornbeam)
・ロックローズ(Rock Rose)

トリュフの街、アルバ

Associazione Nazionale Citta del Tartufo は1990年10月アルバの街に発足しました。設立目的はトリュフの宣伝、トリュフ文化の拡大、トリュフの品質の保護、環境保全の推進、トリュフ関連ビジネスの強化、そしてトリュフの育つこの地域へのツーリズム誘致活動です。7つの地方自治体と3つの山岳共同体で発足し、現在では50の地方自治体が参加しています。