トリュフの特性

訓練された犬
訓練された犬

トリュフという菌類は子実体(トリュフの球体そのもの)を生成する際に、地上性のキノコ類が胞子を空気中に風に乗せて拡散させるような方法をとることが出来ません。このために、トリュフを含む地下生菌は地中で強い芳香を放つように進化してきました。この芳香は、胞子が成熟してから放出されます。トリュフを餌とする生物(昆虫や軟体動物、爬虫類、哺乳類)には魅力的な香りです。これらの生物はトリュフを餌とすると共に胞子の放出拡散の役割を担ってきました。
リスやネズミなどの哺乳類、ヤスデや昆虫などの節足動物が地下生菌の子実体を食べて移動し、胞子の入った糞をすることで胞子を散布することになります。トリュフを捕食する生物には次のものがあります。

トリュフの森へ
トリュフの森へ

・哺乳類:ヒグマやオオカミ、キツネ、野生イノシシ、松テン、アナグマ、ヤマネ、マウスおよびウサギ。

・爬虫類:ヘビやトカゲ。
・昆虫:バッタ、セミ、コオロギ、カマキリ、ハエ、甲虫、蚕及びカイガラムシ。
・軟体動物:カタツムリ、ネマトーダ(線虫)を含むワーム類。
トリュフを食べる動物は、トリュフの子実体そのものや、共生している植物の根にダメージを与える可能性があります。それでも、これら動物の手や体に付着した胞子は別の場所に運ばれるので、その結果トリュフ胞子は拡散に成功することになります。
つまりこれら小動物たちの食欲はトリュフの増殖に寄与していることになります。たとえ別の場所への拡散に寄与しない場合でも、トリュフの胞子は動物が乱雑に掘り出した際に破片として散り散りになって、少なくともその場の地中には残る事になります。

トリュフハンティング

犬がトリュフをかぎ当てる
犬がトリュフをかぎ当てる
人間がトリュフハンティングをするには、トリュフを掘り出す性質をもつ動物の助けがなければ、まず不可能です。とくに、白トリュフ(Tuber Magnatum)はかなりの深さ(場合によっては1メートル以上)に埋まっているのでことさら困難です。このことから人は、嗅覚の鋭い動物を飼い慣らしてトレーニングを行います。特に、トリュフを見つけたときに齧ったり、食べてしまったりしないで飼い主に運んでくるようにトレーニングを重ねてきました。


短い鍬で丁寧に掘る
短い鍬で丁寧に掘る
最初は豚が使われました。その後には西ヨーロッパでは犬が数世紀の間使われています。犬は早く動き、覚えも早くて従順なので、トリュフハンティングには最適なのです。
トリュフハンターと犬との相性は、トリュフ収集の最も重要な部分です。

トリュフハンター

黒トリュフを収穫
黒トリュフを収穫
白トリュフを掘り出したところ
白トリュフを収穫

ほかの仕事を持っていたとしても、稼ぐためにトリュフ収集活動をしている人をプロのトリュフハンターと呼び、彼らは秘密主義的な気質を持っています。トリュフハンターの存在は、その土地のローカル色の一部として溶け込んでいます。

このトリュフハンターのことをピエモンテでは“トリフォラオ(trifolao)”と呼びます。イタリアのトリュフハンターだけは、このような独特の方言の名称で呼ばれています(注:trifulau・trifolau・trifuleなどとスペルされたり発音されることもあります)。

さて、現実のトリュフハンターはどのような人なのでしょうか?
トリュフハンター全てを一つの典型にまとめる事は難しいです。現在4,000人以上もの人々がピエモンテのトリュフハンターとしてライセンスを与えられています。なにぶん大人数のグループなので、それぞれ人によって違いがあるのです。
とはいえ、一つの典型例を挙げてみましょう。

トリフォラオ(トリュフハンター)の資質、きっかけ

トリュフハンタートリフォラオが備えている主な特徴は、ローカル地形についての比類ない知識、鋭い観察力とトリュフを掘り出すべき最適な場所を見つける勘です。
犬との絶妙な相性、トリュフを掘り出す高いスキルを持つこと・・・その結果、トリュフを完全な状態で掘り出して、土中には次のシーズンのための胞子を保護できるのです。

20世紀初頭には、トリュフハンターの目的は不十分な農業収入を補うためでした。
林産品からの収入は地域経済に対して貴重でした。たとえば薪、狩猟による野生動物、栗、果実など。また特に、ランゲとモンフェッラートの土地にはトリュフがありました。

トリュフ採集は主に夜間に行われていました。昼間は農作業に費やされるという理由や、トリュフハンター同士の競合を避けるためです。

トリノ大学の研究では、何十人ものピエモンテのトリュフハンターに取材を行いました。
その結果ですが、取材を受けた人たちのおよそ半数はトリュフハンティングやトリュフ育成をするなどトリュフの商業的取り扱いをしていました。一方それ以外の人々は主に販売業者で、一人だけは単に趣味として、自分で楽しむためにトリュフ狩りをしているというものでした。

トリュフハンティングの方法

地域のカレンダーで採取解禁期間には、彼らはトリュフの分布している林野を、本業の時間が許す限り昼夜構わず毎日訪れます。
基本は、一人が一匹の犬(二匹の場合もあり)を連れています。彼らは自分の土地、または経験的に生育が盛んだと分かっている場所に行きます。その場所は、それぞれが教えずに秘密にしています。大多数は白トリュフを探しますが、近年では白トリュフが不足して、だんだん黒トリュフやサマートリュフを集めるのも普通になってきています。

トリュフの流通と問題点

クリーニングされた白トリュフ
クリーニングされた白トリュフ
特大トリュフ(クリーニング前)
特大トリュフ(クリーニング前)


トリュフハンターが野山で採集してきたトリュフは、たいていはトリュフの専門業者かレストランに売られます。その他、個人的な関係の顧客にも売ります。一般の市場にはあまり出ません。
トリュフハンターが問題として感じていることとしては、違法なトリュフ採取・素人の採取・欲張りなハンターによる採取などの人為的圧力をあげました。ほかの問題としては、規則施行の欠如や、環境条件の低下(トリュフ生産能力の低下、共生樹木を維持する意識の欠落、土地の維持管理の低下、過度に深い耕作や多くの樹木の伐採)です。

犬は、トリュフハンティングに必須です。身体的なスタミナと高度に発達した嗅覚を持ち、飼い主に従順であることが求められます。人間は年月をかけて適した血統を慎重に選別しながら、トリュフを見つけるために犬を使ってきました。

最適な犬種はスピノーネ・イタリアーノ、ブリタニー、ブラッコ・イタリアーノ、ポインター、ロマーニョ・ウォーター・ドッグです。しかし、トリュフハンターの相棒が純血種であることはまれです。一般的には、ピエモンテでは「taboj」(tαbuiと発音)と呼ばれている中型から小型の雑種が好まれます。
「雑種は純血種より鼻が利き、スタミナがあり、賢い」と根拠もなく広く信じられています。このように、雑種犬を好む傾向は、トリノ大学の研究で確認されました。

ほぼすべてのインタビューで、親にブリタニーかブラッコ・イタリアーノを持つ雑種犬を所有していると回答がありました。1回の採集につれて行くのは一匹ですが、数匹を所有しています。雌犬のほうが従順で訓練しやすいと異口同音に意見が出ました。訓練された5歳犬の値段は8,000ユーロから10,000ユーロのものまでありますが、トリフォラオ、特にプロのトリフォラオは自分の犬を自分で訓練することを好みます。

新入りの子犬は年上の犬とともにトリュフハンティングに連れて行かれて、トリュフのかけらやトリュフオイルに漬け込んだ綿を嗅ぐ練習をします。訓練は犬が幼犬のうちに始まり、こういった練習は遊びとして始まります。アルバ地方では、トリュフハンターの助手候補の犬たちは特別な上級のトレーニングスクールに行くこともできます。

現代のトリュフハンティングの道具

ハンディGPS機
ハンディGPS機

トリュフハンターの道具は、単純で最低限のものです。
・湾曲した柄がついた杖。急斜面で支えとなり、木の幹のふもとの土や葉を取り除くため。
・穴掘りを仕上げ、注意深くそっとトリュフを取り出すための道具(北イタリアでは小型のクワ、中南部では小型の幅細シャベル。
・バスケットまたはナップサック。収穫物を運ぶため。
・相棒の犬に対してのプレゼント(正しいにおいを嗅ぎ当て、すぐに身を引くことに対してご褒美が必要です)。
秋のピーク期の標準的な服装は、ウールのズボンまたは厚めのジーンズ、ハイキング用靴、ポケットがたくさん付いたハンター用上着、時に霧や湿気を防ぐためのスカーフや帽子です。伝統的と考えられている衣装、つまり、スカーフ、短いマントと山賊帽などは古い伝説的なスタイルです。最近はトリュフハンターの中には、GPS(衛星ナビゲーション)がなければ森の中には乗り込まないという人もいます。

昔のトリュフハンター”TRIFOLAO”(トリフォラオ)

アルバ周辺のトリフォラオは、かなり強い個性があると思われています。自分の犬をトリュフハンティングのために訓練したり、訓練された犬を買ってきて、たった一人でトリュフハンティングをします。

見つけたトリュフの収穫は人と分け合わないし、出かける際には行先も明かしません。他人にトリュフの収穫を見せることはまれで、その結果、他人の好奇心を刺激しません。自分と同じ場所にライバルが行くことがないように注意しています。ずる賢いので、意外な場所でとれたトリュフは小さなかけらでさえ秘密にします。出し抜かれたライバルのハンターは不毛な場所の探索に何時間もかけることになったりします。トリュフハンターは基本的に嫉妬深い気質で、ライバルの犬に毒を盛ることさえあるといわれます。
人前では物静かで、はしゃいだり癇癪を起こすようなこともありません。

トリュフハンティングのためには、自分専用の秘密カレンダーを持っています。直感的な勘で、毎年正確に木が生い茂る谷底を探索することができます。毎週土曜日には、アルバに向かい、収穫したトリュフを売りに行きます。その売買にかかる時間も、ものの数分もかからないということです。

トリュフハンティングに適した「犬種」

トリュフハンターは扱いやすい小さ目の犬を好みます。ほとんどの場合においてトリュフハンティングは夜に行われます。つまり暗闇で行われるので、トリフォラオ が信頼できる犬でなければなりません。活発過ぎず、とはいえ飽きて活動的でなくなることがない犬、懐中電灯に照らされる明りの範疇から外に走りだすことが無い犬です。
暗闇の中で自分の居場所を簡単に犬に示せるように上着はできれば白っぽいほうがよいです。
犬は、洗練された手法を使って訓練されます。その訓練により、犬はトリュフの匂いに強い反応をするようになります。トリュフのかけらを餌として犬に与えると、トリュフに対する嗅覚が刺激されます。
犬の嗅覚の敏感さとは、地下のトリュフの匂いを15、20メートル先からでも見つけることができるというレベルです。トリュフを一つ見つけるごとに、ハンターは褒美として犬にパンを与えます。これは、狩りが成功すると、口いっぱいの食べ物にありつけるという条件反射を維持するためです。一旦、犬がトリュフへの嗅覚を感じて地面を掘り始めたら、ハンターは犬をどかして、トリュフを見つけるまで、小さな特別な鍬を使ってとても注意深く掘り始めます。

すべてのハンターは、トリュフが育つ場所を知っています、ポプラや柳、オーク、ボダイジュに向かって進んでいきます。
他のキノコと同様に、トリュフは胞子によって繁殖します、一度菌糸との相性が良い植物が見つかると、常に同じ場所で、毎年同じ時期にトリュフが出現すると期待できるのです。このあたりがトリュフハンターが秘密主義者である理由です。
誰にもその場所を発見させないように気を付けるからなのです。
そのため、そして、トリュフハンター達は日中は畑やブドウ畑で過ごすため、トリュフハンティングをするのは、夜、暗い中を懐中電灯で、危なっかしい小道を照らしながらトリュフを探すのです。

トリュフの売買は独特のルールで行われます。トリュフは買い手との相対取引で、一対一でこっそりと取引されます。
通常、市場では商品が人前に派手に並べられますが、トリュフの取引においては、紙やシンプルな布にくるまれたり、ポケットやカゴの中にいれたままです。買い手はトリュフを一瞥評価し、売り手の目論んでいる価格やいくらなら成約するかの可能性を評価します。

チャンピオン犬

初期のトリュフフェアでは、最多収穫量のハンターが(ハンターと犬とがペアで)同じ壇上で授与されることは珍しくなかったのですが、トリュフ犬のチャンピオンの名前はあまり記録に残っていません。地元のRoddi大学の記録には、いくつかの素晴らしいチャンピオン犬の詳細があり、単純で素朴な犬の名前が残っています。1970年代のスーパーチャンピオン犬は、一晩で5キロのトリュフを見つけたと言われています。

犬の訓練校について

【A SCHOOL FOR TABUI  「TABUI」のための学校】
アルバ市のはずれにロッディ(Roddi)村があります。
ロッディでは1880年から、モンキエーロ(Monchiero:地名)の家族がトリュフハンティング犬養成学校を代々経営してきました。この養成学校はプライベートな組織としてスタートしましたが、1935年に公的なものになりました。
バロー(Barot)を名乗る系譜の初代であるアントニオ・モンキエーロ(バロー1世)は賢くて、農村の四方八方について熟知しており屋外での活動に熱心でした。狩猟、釣り、野生食物収集、特にキノコとトリュフについて力を入れていました。

ポレンツォ城
ポレンツォ城

アントニオ(バロー1世)は、収穫した食材をポレンツォ城のシェフに販売していました。ポレンツォ城はサヴォイア王家の住居であり、たまにカルロアルベルトの後継者、ヴィットリオ・エマヌエーレ2世とウンベルト1世が訪問しました。
アントニオ(バロー1世)は犬を訓練をするために必要な才能を自覚しており、自分で犬のための学校を立ち上げるというアイデアを持っていました。

現在、この犬の訓練校では2~3週間で集中訓練をするコースを控えめな料金で行っています。
犬の訓練は屋外で行われます。まず学校の中庭で。まずはトリュフの香りを覚えることからスタートします。ボールやぼろ布に強い芳香物質を浸して、これで遊ぶことをします。過去には、子犬を数日間食事を与えずに訓練するという方法が採られていましたが、このようなかわいそうな方法は現在では許されていません。
続いて、タナロ川周辺の岩の多くて樹木が茂った場所につれて行きます。トリュフのかけらをだんだんと深く埋めてトレーニングを進めます。
最も有望な犬は、大学院課程のような訓練を受けることができます。観光客向けのトリュフハントの真似事をするアクティヴィティの役割を担うということがあります。観光客はイタリア国外からの来訪者がほとんどで、犬たちがトリュフを漁る様子を追いかけて大いに楽しんでいる様子です。
訓練された犬は、何千ユーロもの価値があります。