※このコラムは、長年イタリア各地へ料理修行に通うイタリア家庭料理研究家 山中律子さんが、イタリアの郷土料理や食文化に触れながら、INAUDI商品を掘り下げる特別コラムです。
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南イタリアの太陽が為せる業
「乾燥トマト(ドライトマト)」
イタリア料理にさほど詳しくない人にも、今や、その名はすっかり認知されるようになった「ドライトマト」。しかし、いまひとつ遠い存在というか、普段の料理にあまり関係のない食材と思われがちではないだろうか。
使い方がよくわからないという声はいまだによく耳にするし、イタリア料理店でさえも「どうしてもドライトマトがないと作れない料理」というのを、日本ではなかなか見かけない。
それはひとえに、その真の実力が、意外と知られていないからだと思う。
ところで、INAUDI社のドライトマトのパッケージに貼られた日本語のラベルを見ると「乾燥トマト」とある。そういえば、ひと頃はそんな言い方をしていたっけ。
いまどき「乾燥」という字づらも、古くさい気がしないでもないが、不思議と「乾燥トマト」と言われると、急に身近な食材に思えてくるのはなぜだろう。
食材を乾燥させて保存食にするという全世界共通の先人たちの知恵は、日本では特に、梅干し、干し椎茸、切り干し大根…と挙げればきりがないほど、庶民の食生活に欠かせない存在。
そう思うと、「ドライトマト」より「乾燥トマト」のほうがむしろシズルがある。
ドライ椎茸、ドライ大根などと聞くと、カリッカリのフリーズドライ食品を想像してしまいそうだし、やっぱり日本語がしっくりくる。
もっというと、日本ではなぜか「乾燥〇〇」ではなく「干し〇〇」という言葉を使うことの方が多いけれど、「干し」と付くほうが、人工的に施された乾燥ではなく、食材が風通しのよい場所で陰干しされながらじわじわと旨みを増していく過程をイメージさせてくれる。
ドライトマトも、いっそ「干しトマト」といってみるのはどうだろう。その方が我々日本人の食指もちょっとは動くに違いない。
さて、食指が動きかけたところで、話を戻そう。
「ドライトマトの使い方がイメージできない。どんな使い方をしたらいいの?」
そうした声に、語弊を恐れずに答えるとするなら、「ドライトマトは、トマトと思わないことが重要」と答えたい。
たとえば、ドライトマトを「昆布」に例える声もよく聞くけれど、それもその通りで、天然の旨み成分が豊富なドライトマトは、昆布同様、戻し汁ごと、とてもいい仕事をしてくれる。
しかし、昆布と大きく異なる最大の特徴は、湿気とは無縁の南イタリアのカラッとした真夏に、ミネラルたっぷりの海塩と、灼熱の太陽の日差しをこれでもか、というほど浴びさせて、乾燥状態にしているということ。
意外と知られていないドライトマトの真の実力とは、まさにここにある。
あれだけジューシーで肉厚なイタリアトマトを、カビひとつ生やさずに、こんなにも干からびさせてしまう太陽って、どんだけすごいのだろうと思うけれど、この「干からびた天日干しトマト」の中にこそ、生のトマトの何倍ものビタミンA、ポリフェノール、ミネラルが凝縮し、抗酸化作用も期待大。紫外線による縮合反応とやらで栄養素も増え、干す過程で糖分もつくられるという。
「干からびた天日干しトマト」の戻し方は至って簡単。熱湯に15分〜20分ほど浸しておけば、ふっくらと柔らかくなる。しかし、これを生のトマトの代替品として料理に使おうとは、決して思わないでほしい。なぜなら、トマトとはまったく次元の異なる、新たなる素晴らしい食材に化けているからだ。
一口かじった瞬間に広がる、酸味と塩味と旨みがぎゅっと凝縮「しすぎた」味は、他の何にも例え難い唯一無二のもの。初めての人ならちょっととまどうかもしれないし、必ずしもパクパク食べる気にはなれないかもしれないけれど、この状態でオリーブオイル漬けにすれば、オイルが媒介となって塩気と酸味と旨みが見事に三位一体となる。パンの上に載せるだけで十分に美味しい。
しかし南イタリアの太陽の恵みを100%堪能するのであれば、やはり、果肉のみならず、戻し汁もフル活用してこそ。そしてそれこそが、「どうしてもドライトマトでないと作れない料理」であり、南イタリアにはこうした料理がたくさん存在するのだ。
そんな中でも、ドライトマトの本場シチリアのアグリツーリズモ(農家民宿)のマンマに習ったパスタ料理は、果肉はもとより、戻し汁さえも余すことなく使い切るというもの。
お湯で戻したドライトマトを、バジルやアンチョビなどと一緒にフードプロセッサにかけてペースト状にし、茹で上げたパスタと和えるだけなのだが、この時、戻し汁をパスタに吸わせながらアルデンテにしていくのが重要なポイント。パスタの一本一本がドライトマトの塩気と酸味と旨味を纏い、汁気がないのにスルスルと一気にすすってしまう。
まさに「ドライトマトのパスタ」であるが、決して「トマトのパスタ」ではないことに、気づいていただけるはずだ。
塩は一切使用せず、調味料もなし。それなのにこんなに味が決まる。
ついでにいうと、この料理、実は実際に作ってもらったわけではない。宿を発つ朝に「そういえば、ドライパスタの料理、教えてなかったわね」と、いきなりマンマが作り方を語り始め、慌ててメモを取ったもの。日本に帰国後、分量も適当なまま言われた通りの方法で作ってみたら、簡単なのに美味しくてびっくりしたものだ。
これもまた、ドライトマトという天然調味料かつ天然食材が為せる業、いや、南イタリアの太陽だからこそ為せる業だろう。
ということで、最後に、日本のイタリア食材輸入業界の皆様に提案したい。
ドライトマトの名称は、今後「天日干しトマト」で統一してはどうだろう。日本ドライトマト消費量は、絶対に増えるに違いない。これ結構、マジです。
イタリア家庭料理研究家・コピーライター・地域活性化アドバイザー
山中律子
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