※このコラムは、長年イタリア各地へ料理修行に通うイタリア家庭料理研究家山中律子さんが、イタリアの郷土料理や食文化に触れながら、INAUDI商品を掘り下げる特別コラムです。
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イナウディ社の原点をぎゅっと瓶に詰め込んだ、究極の逸品。
「LaTartufata タルトゥファータ」
La Tartufataタルトゥファータ。イナウディ社のこの商品を目にして、はたと思う。
トリュフをイタリア語ではTartufoタルトゥーフォというが、それを動詞化したのがTartufareタルトゥファーレ(トリュフで仕立てる、トリュフで和える)、そしてその過去分詞がTartufataタルトゥファータであり形容的に使用する。つまり「トリュフ仕立ての〜」という意味だ。
このように、食材の名詞がそのまま動詞にアレンジされている例は、他にパッと思いつく限りではZuccheroズッケロ(砂糖)→Zuccherareズッケラーレ(砂糖を加える)とか、Saleサーレ(塩)→ Salareサラーレ(塩をふる)、Olioオーリオ(油)→Oliareオリアーレ(油をかける)くらいだろうか。いずれも食材というより調味料の基本の基本、代わりの効かないものばかりだ。
そんな中で、トリュフという一食材の言葉をそのまま動詞化してしまうなんて、やはりトリュフって、イタリア人にとってものすごく特別な食材なのだとつくづく思わずにいられない。
さて、「トリュフ仕立ての」という一般語が存在することに納得したところで、改めて、はたと思う。それをそのまま商品名にしてしまうこと自体、すごいことなのではないか。その上、なんと商標まで取得しているという。よほどクオリティに自信がなければできないはずだ。
イナウディ社は北イタリア、ピエモンテ州に本拠を置く食材メーカー。ピエモンテ州といえば、スローフード発祥の地であり、バローロ、バルバレスコのような赤ワインやチョコレート、そして白トリュフといった世界に誇る食材の産地としても有名だ。
始まりは、戦後、イナウディ家が家族で立ち上げた小さな食料品店、中でも地元で採れる良質な「ポルチーニ茸」と最高級の「白トリュフ」が評判を呼び、地域に支持される有名店となっていく。
その後、イナウディ社として創業し、乾燥品やオイル漬け、瓶詰めの加工品などを展開していくが、そんな中でも社の支柱としてずっとこだわり続けてきたのが茸とトリュフ。
その品質は高く評価され、ピエモンテ州の優れた食材メーカーに贈られる賞の茸・トリュフ部門を長年受賞し続け、昨年はイタリア全土を対象とした「Italy Food Awards」の茸・トリュフ部門最優秀賞を受賞した実績を持つ。
つまり、この「Tartufata」は、そんなイナウディの強みである茸とトリュフ、中でも社の原点ともいえる「ポルチーニ茸」と「白トリュフ」の2つを、ぎゅっと一つの瓶に凝縮した、名実ともにイナウディ社の顔そのものといえる商品なのだ。
背筋を伸ばして蓋を開けたその瞬間、閉じ込められていた白トリュフの香りが、決して大げさではなく部屋中いっぱいに広がる。と同時に、思わず20数年前の料理修行時代が蘇る。
白トリュフの産地として有名なピエモンテ州の町、アルバ郊外のリストランテ、晩秋のハイシーズンには厨房は毎日この香りで包まれていた。タヤリンというピエモンテ州名物の細い平打ち麺をバターでシンプルに仕上げた後、上から、シャッシャッシャッと白トリュフを削って供する料理は、一晩で何皿出たことだろう。
その削り立て白トリュフと全く同じ風味、そして自慢のポルチーニと共になめらかなペースト状にされた白トリュフのクリームがこの小さな瓶の中に詰まっていることを思うと、ある意味、生の白トリュフよりも貴重な一品かもしれない。
まずはほんの一口、そのまま口に運んで味わってみて欲しい。
あとは、オムレツの上に、お肉の上にとどうぞご自由に、と言いたいところだが、おすすめはやはり、シンプルなパスタ。他の具は一切加えずに、茹でたてのパスタと和えるだけが最も贅沢な食べ方だと思う。
瓶詰めにしては少々勇気の要るお値段かもしれないが、自宅にいながらにして、本場の最高級品質のイタリア食材を使って、まっとうな正統イタリア料理が腹一杯食べられるなんて、日本の高級リストランテで散財するよりもずっと価値がある。
足りないのは「シャッシャッシャッ」という白トリュフを擦りおろす音だけ。でもそれさえも、目を瞑れば聞こえてきそうなほどだ。
最後に、Tartufataを名乗る瓶詰めは、実は他にも多く出回っているが、そのほとんどが「黒トリュフ」をベースにした黒いペーストであることだけ付け加えておきたい。
トリュフの最高峰である白トリュフと、茸の王様であるポルチーニ、この2つにこだわって商標登録までしてしまった「Tartufata」といえば、世界でただひとつ、イナウディのそれだけである。
イタリア家庭料理研究家・コピーライター・地域活性化アドバイザー
山中律子
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